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After Blue
だいじょうぶだよ きっと。
青春に挫けそうな人のためのバイブル。 

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 聖子さんは、歌手目指してがんばっていましたが、苦しいことの連続で、最近少し神経質になっていました。そんなある日、女優を目指している友達から、一通の手紙がとどきました。その中には、ドラマのチラシが入っていて、脇役だけれど、友達の名前が載っていました。そして、手紙の最後には「PS がんばれ!」の文字が。それをみた聖子さんは、とても元気づけられます。友達もがんばっている、私も、くやしい気持ちを吹き飛ばして、もっと明るい本来の自分に戻ろうと強く決意します。

 この曲は、わりと中音を中心に歌っている部分がありますが、現在の聖子さんとくらべると、いま一つ安定感がありません。やはり、このころの聖子さんは、ハイトーンの声に頼らなければ、自分の気持ちを表現できなかった気がします。でも、若々しさが、それを補っています。

 聖子さんは子供のころから、テレビ番組にいろいろ出ていましたから、女優になっていった友達もきっといたはず。おそらく、このエピソード自体は、実際にあった話で、聖子さんが西脇唯さんに頼んで詩にしてもらったのだと思います。

 私も、たまに昔の友達から手紙をもらいますが、あまり励まされた経験はありません。だいたい、石川啄木の「友がみな我より偉く見える日よ…」の心境になります。くやしい気持ちだけにしばられない自分でありたいと、この曲をはじめて聴いたときからずっと思っています。

 

思いはかならず届く

 聖子さんは、片思いの彼に告白しようと決意します。一番好きな服を着て行くために、真夜中に洗濯をはじめたりします。明日はちゃんと目をみつめて、「好き」といってしまおう。結果はわからないけれど、いまの恋心があれは、何があっても乗り越えられていけそう。

 聖子さん自身の作曲。無理のない音域を選んでいるため、のびのびと歌っています。思いつめたところが全く感じられないのがいいです。若いころ、私は、恋をするとすぐに思いつめてしまうほうで、こんなにリラックスした気持ちじゃなかった気がします。ほかの人はどうでしょうか。こんなにうきうきした気分なんでしょうか。それとも、これは聖子さんの歌の世界だけの話なんでしょうか。

 私も、この曲のように、ひとつしかない気に入った服を、真夜中に洗濯したことがあります。でも、やっぱり、そんなに気合を入れてしまうと、物事はうまくいきません。この曲の聖子さんは、どうだったんでしょうか。うまくいったのでしょうか。ふられたのでしょうか。

 この曲は、たしか、宝くじのCMとタイアップだったと記憶しています。真剣な愛の告白と、宝くじをいっしょくたにしてしまうなんて、ちょっとひどいなあと、ずっと思っていました。でも良く考えると、恋愛とは、宝くじと同じであるかもしれません。

 

友達よりあなたといたい

 恋人と一夜を明かした聖子さん。朝になっても彼氏と離れたくありません。聖子さんには、大事な友達に会う予定がありましたが、すっぽかして、彼氏といようとします。彼氏にも、午後からのアルバイトをすっぽかして、ずっといっしょにいるようにお願いします。

 ちょっと淫蕩な感じの歌詞なのですが、明るいメロディーと、聖子さんの歌声が、それを感じさせません。二十歳くらいの女の子の恋が、自然体で歌われていると思います。「思いはかならず届く」のところでも述べましたが、聖子さんは自分の作った歌だと、本当にのびのびと歌っています。聖子さんの現実の恋愛体験と、この曲の内容と、どのくらい共通点があるのでしょうか。実際は、こういうときは、さっさと帰ってしまうとか。でも、聖子さんなら、やっぱり、この曲の内容のとおり、ずっと彼氏と一緒にいそうですね。

 ちなみに私の昔の恋人=今の妻は、友達との約束どころか、会社をサボって、3日くらい、私と一緒にいてくれました。でも、私は、ちゃんと出勤しました。彼女は、その間、掃除、洗濯などをやっていました。あれは、もう完璧な押しかけ女房でした。あんなに元気だった妻が、重病になるなんて、もちろん、そのときには、思いも及ばないことでした。

 

恋が風になって

 聖子さんには彼氏がいましたが、別の女の子が、その彼氏をひそかに狙っていました。ある日、聖子さんは、駅のホームで彼氏を見かけ、駆け寄っていこうしました。すると、突然、横からその女の子が飛び出してきて、なれなれしく彼の肩に手を掛けかと思うと、さっさと二人で電車に乗ってしまいました。あっという間に、ドアが閉まり、電車は風のように去っていきます。呆然と空をみつめる聖子さん。不安になってゆく気持ちを蹴飛ばして、絶対に彼氏を渡すものかと嫉妬に震えます。

 嫉妬に燃える女の子の姿は、男性の目からみると、ちょっとかわいい。曲は小気味良いテンポで、男性の目から見た、かわいい聖子さんの姿が強調されています.涙を全く感じさせないところが、とてもいいと思います。女性の立場では、この曲はどのように聴こえるのでしょうか。すっかり感情移入してしまうのでしょうか。きっと、男性が聴いた場合と、ぜんぜん受け止め方が違うと思います。

 この曲の聖子さんの歌声は、キュートで、なおかつ、迫力があります。出だしのところの、彼氏を狙っている女の子の描写の部分の歌い方や、サビのところとか、歌のストーリーを突き抜けた情念が感じられます。この曲は、聖子さん本人の作詞。聖子さんが実際に恋したときの思い、恨みつらみが、こめられているのでしょうか。

 聖子さんが、これから曲を作っていくときに、「嫉妬」は、魅力あるテーマのひとつだと思います。聖子さんなら、怨念のこもった曲も、迫力と女らしさたっぷりに歌ってくれそうな気がします。怨歌の女王と呼ばれたりして。

 私も若い頃は、この曲に出てくる女の子と同じような手法で、さんざん女の子に声をかけて見ましたが、ほとんど成功した試しがありません。私には磨き上げた銀の羽根はなかったのでしょうか。そんなの当たり前だって!

 

HOTでゆこう

 聖子さんは、真夜中までハードワークをこなしていました。やっと仕事が終わっても、終電の時刻はとっくに過ぎています。街の明かりもほとんど消え、メインストリートの街灯だけがともっています。仕方がないのでタクシーを拾おうとしても、ぜんぜん止まってくれません。いらつく聖子さん。始発電車には、まだまだ時間があります。しかたなくコンビニで熱いコーヒーを買って飲み干す聖子さん。きつい仕事だけれども、プライドをもってがんばろうと誓います。

 鼻にかけたような歌い方。ちょっといきがっている雰囲気がよくでています。がんばって、いきがっている女性というのも、男性からみるとかわいいのですが、それは偏見というもの。立派な仕事をこなしている人が多くて、私などはぶっ飛ばされそうです。でも曲の方は、「恋が風になって」に引き続いて、かわいらしさが強調されています。

 私も、二十代前半のころは毎日2時ごろまで仕事をしていた時期がありましたが、今にして思えば、この曲の聖子さんのように、単にいきがっていただけだと思います。今の私なら、同じ量の仕事を、あのころの3分の1くらいの時間でこなしていけるでしょう。でも、人生の中で、特に二十代前半のころは、ハードワークをこなして、仕事の技量を上げることが大切ですから、まったく無駄だったとは思いません。むしろ貴重な経験だったと思います。

 ライブの時には、聖子さんの歌の迫力が、特に感じられる曲でした。中野サンプラザでのライブでは、この曲が終わると同時に、ステージの両端に設置してあった花火が客席に向かって噴き出して、びっくりしました。

 

PAIN

 聖子さんには片思いの男性がいました。普段は友人として、聖子さんにもやさしく接してくれるのですが、「自分には恋より大事とな夢がある」といって、恋愛には興味がなさそうです。友人なのか恋人なのか、あいまいな状態が耐えられなくなった聖子さんは、ある日、彼をコンサートに誘います。ところが出かける前、彼にいくら電話をかけても、「ごめん」と留守番電話のメッセージがあるだけです。留守番電話なので、憎まれ口を言うこともできません。聖子さんは待ち合わせの駅へ向かいます。駅で、待っても待っても、やっぱり彼は来ません。やがて、コンサートの時間が過ぎ、聖子さんはコンサートのチケットを破り捨てます。涙をこらえながら聖子さんは駅を去ります。くやしい気持ちで一杯ですが、それでも聖子さんの素直な心は、彼の姿をずっと探し続けています。

 私の錯覚でしょうか、CDを聴いていると、アルバムの中で、この曲だけ歌声がキラキラ光っているように聴こえます。なぜだかよくわかりません。きっと、この曲は、当時の聖子さんに一番ぴったりの曲だったからでしょう。もうバリバリの青春時代という感じですね。ちょっと不安定な歌い方が、切なくてとても胸に響きます。

 それにしても、恋より大事な彼の夢っていったい何なのでしょう。いくら考えても思いつきません。恐らく、女性、西脇唯さんの立場では、恋にすべてをかける男性よりも、女なんか見向きもせずに自分の野望に燃えている男性の方が、頼もしく見えるということではないでしょうか。恋より大事な夢というのは、実体はないと思います。

 私は、この曲をときどきカラオケで歌います。男性が歌っても、それほど変な感じはしないようです。

 

ほおづえの夜

 聖子さんの作曲の仕事はうまくいきません。なんだかやる気もなくなってきて、散らかっているファイルもそのままです。自分の部屋にひとりっきりでうずくまり、ほおづえをついて、ぼんやり笑うだけです。まるで、聖子さんが世界中からいじめられているような気分です。それでもいつまでも落ち込んでいるわけにはいきません。仕事をやる人間は、自分自身しかないのです。聖子さんはとにかくキーボードの前に座り、鍵盤をおして、声をだして、仕事をはじめようとします。

 聖子さんの実生活をそのまま歌にしたような曲。ファルセットの部分の歌声がたまりません。苦しさを歌った曲ですが、どことなく安らぎのようなものも感じます。

 ひとりっきりでやる仕事って、どんな分野でも大変だと思います。私も、ひとりだけで仕事をしたことがありますので、少しはつらさがわかるつもりです。でも、作曲の仕事って、普通のデスクワークや肉体労働よりも、消耗しそうですね。現在の聖子さんの主な仕事は作曲活動ということですから、すごい孤独でつらい仕事をされていると思います。とりあえず、ファンである私たちは、いつまでも待っていますし、応援していますのでマイペースでやってください。決して聖子さんは孤独じゃなくて、ファンのみんなが応援しています。

 ライブでは、この曲のアコースティックバージョンを披露してくれたことがありました。そのときの演奏がいつまでも耳に残って、CDに収録されている演奏よりも、印象が強いです。

 

夢で逢いましょ

 聖子さんは失恋してしまいました。遠く離れて行く彼の後ろ姿。聖子さんにはどうすることもできません。でも、これからも、夢の中でなら、彼氏と逢うことができます。夢の中でなら、彼氏といつまでもふたりきりで、楽しい話ができます。それが、たとえ幻の世界であっても、そこにしか、聖子さんの行くところはないのです。

 聖子さんの歌の中で、最も弱気な曲。でも、この歌を、このころの聖子さんが幼かったことを示しているだとか、精神的成長が足りないだとかいうふうには、私は思いません。みんな言葉にはしませんが、だれにでも、心の中には、夢の中でしか逢えない恋人がいるはず。聖子さんは、それを素直に言葉に出してみただけのことであると、私は思います。ただそれが、普段の聖子さんの強気な歌の内容と違っているので、すこし妙な気がするだけです。

 歌詞は、現在の出来事という設定になっています。でも本当は、この曲は、聖子さんが、昔の恋人のことを思って作った曲であると思います。やはり、そう思うのが自然。現在の出来事と考えるには、やや生々しさが足りないと思います。そう思えば、納得できるのではないでしょうか。

 普段の聖子さんは、とても強気なのですが、ちょっと一皮めくると、傷つきやすいナイーブな心が隠されているのです。その弱々しさを、包み隠さずにさらけ出した得がたい曲といえるのでは、ないでしょうか。

 他に似たような歌といえば、加藤いづみさんにも「空とぶカウボーイ」という、夢の中で恋人に会いに行く歌があります。聞き比べてみると、いかに「夢で逢いましょ」が、聖子さんらしいかわかるでしょう。強気な情熱と、弱々しい内面を併せ持つ持つ一人の女性、佐藤聖子さんを、いつまでも見守っていきたいと、私は思います。

 

After Blue

 クリスマスイブの日、聖子さんは、喫茶店にいました。まわりは、恋人と待ち合わせをする女の子たちばかり。男の子が迎えに来るたびに連れ立って通りに出てゆきます。でも、聖子さんは、ひとりぼっち。別れた彼氏のことを思いだし、切ない気持ちになります。聖子さんは、店を後にして、恋人たちであふれた街を、目に涙を浮かべながら、一人きりで歩いてゆきます。彼と一緒に食事するはずだったレストランに断りの電話を入れ、友達同士のパーティーに出席することにした聖子さん。いい男なんてこれからいくらでも見つかると強がってみましたが、やっぱり、彼氏のことが忘れられません。やがて、ふりだした雨が雪に変わったとき、聖子さんは立ち止まり、もう二度と彼と会うことはないという寂しさを噛み締めます。

 一言でいえば、青春失恋クリスマスソング。メロディーが素晴らしく、大人のドロドロとした失恋とは違い、若々しい清々しさを感じさせます。さらに、クリスマスのウキウキ感を出すことによって、逆にその中で一人悲しみに耐えるしかない聖子さんの思いがくっきりと浮かび上がってきています。曲の最後に静かに流される鈴の音も余韻があっていいです。

 ところで、「失恋を思い出すと指が痛む」という表現がでてくるのですが、皆さんは、実際にそういう経験をしたことがありますか。どうでしょうか。私は、20才くらいまでは、実際に小指が痛むような経験があったような気がします。年を食ってからは、いくら好きな女性にふられても、そんな経験はありません。いつのまにか、若々しい感性をなくしてしまったのでしょうか。また、医学的にはどうなのでしょうか。興味が尽きないところです。

 

東京タワー

 東京での一人暮しにも慣れてきた聖子さん。ある穏やかな晴れた日に、ふと東京タワーに登ります。景色をみるとそこには、美しい青空、そしてその下には、びっしりとひしめきあったビルの窓ガラスがまぶしく光っています。窮屈で厳しい都会の生活。でも自分の夢を実現するためには、この大都会でがんばりぬくしかない。高く上りつめることが全てじゃないけれど、かけがえのない夢をもっともっと追いかけてゆこう。タワーから見える大都会の光景は、苦しいけれど美しい青春の姿そのものなのです。

 私は、地方から出てきて、学生時代を東京で過ごしました。この曲は、自分の青春時代と完全にオーバーラップしています。だから、この歌の一言一句がすべて胸に響きます。東京時代は、苦しい生活で、挫折も多かったけど、今となっては全て美しい思い出です。

 私は、その後、東京を離れましたが、今でも、東京にいたころのかけがえのない夢をずっと追いかけています。私の家庭は妻が重病になったりしてめちゃめちゃだし、仕事も苦しいことの連続だけど、いまでも東京にいた頃と同じ気持ちでがんばっているつもりです。この歌を聴くと、青春の頃を思い出して、そうだ、がんばらなくちゃという気持ちになって、とても励まされます。

 聖子さんはどうですか。いまでもこの歌を歌っていた頃と同じようにかけがえのない夢を追いつづけていますか。いまでも、この歌を私たちの前で、大声で元気良く歌えますか。

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