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CRYSTAL
彼女が唄い描いたすべてが
今、結実の瞬間(とき)を迎える。 

すてきなシャイニン・デイ

 素晴らしく晴れあがった秋の午後、聖子さんは、街に散歩に出かけます。まわりの木々は、美しい色に染まり、その下をカラフルな服を着た恋人たちが、楽しそうに歩いています。そんな恋人たちの後ろを、ひとり寂しく歩いてゆく聖子さんは、恋人いない歴5年以上。聖子さんひとりだけが、街の雰囲気にとけ込めず、のけ者にされているようです。木々が枯葉になってゆくように、聖子さんの青春時代も、いつのまにか終わろうとしていますが、一向に恋人ができる気配はありません。「恋人はどこ?」聖子さんは、心の中で叫びます。

 美しい街の風景、恋人たちと、ひとりぼっちの聖子さんとの対比が、鮮やか過ぎて、残酷です。聖子さんの歌声が、キュートで、愛に恵まれないかわいそうな女性の姿が浮かび上がってきます。聖子さんは、とてもかわいい女性ですが、必ずしも万人受けするタイプではないと思いますので、やはり、この曲の女性の姿とだんだん重なりあってきて、心配になります。聖子さんはこの曲のような状況を実際に体験したことがあるのでしょうか。いちど、何かの機会があったら聞いてみたいです。

 二十代後半を過ぎても、恋人ができなかった体験を持つ人にとっては、生々しすぎる内容の歌詞です。そんな人は、この曲に共感を覚えるというよりも、拒絶してしまうのではないでしょうか。もし、私が、独身の一人ぼっちのときに、この曲を聴いていたら、おそらく耐えられなかったと思います。作詞者の馬場さんは、この歌詞のような体験をした人でないか、よほど心の強い人なのかなと思います。作詞者として、ドラマ的な情景を描きだすのが、仕事なんだと思いますが。

 一時期、五島良子さんが、この曲と同じようなテーマの曲をいくつか作っていたと思いますが、思いっきりオブラートに包み込んで歌っていました。それは、婉曲な言いまわしのほうが味がある、というのではなく、この曲のようなストレートな描写をするのは、女性として切な過ぎて心が耐えきれないということだと思います。その意味で、男性の馬場さんが作詞することによって、初めて可能になった曲といえるのではないでしょうか。

 

地上9mの宇宙

 この曲は、いい曲だと思うのですが、個人的にいやな思い出がありますので、感想は書きません。また気持ちの整理がついたら、書いてみようと思っています。(2000年5月2日)

 今まで、この歌の感想を書かなかった理由を明かしましょう。それは、この歌に歌われている聖子さんの様子が、重い精神病に侵された妻にそっくりだからです。ベランダが宇宙船になって、遠い夜空へ旅立ってゆく、そういうことを、ユーモアでなく本気で考えてしまう。それが妻の重い妄想なのです。

 妻は私と一緒に「虹のゲート」があるところまで行こうと言いました。きっと妻の心の中には、星空を旅する夢のような世界があるのでしょう。でも、私は妻と一緒に「虹のゲート」に行くことはできません。残酷な美しい幻の世界に生きる妻。現実の世界を生きている私とは、どんどん離れ離れになっていく一方です。

 そんな私にとって、この曲はとても平静な気持ちで聴くことはできません。聖子さん、せっかくのいい曲なのにごめんなさい。(2001年6月22日)

 

冬に咲く花

 ある晩秋の日、聖子さんは、昔、同棲していた男性に手紙を書きます。彼がやさしかったときの思い出、いつのまにか愛が冷めていったときのこと、そしていまは、別の男性を愛し始めていること。昔の男性への愛は、急激に燃え上がり、急激にさめてしまいました。今度は、冬に咲く花を育てるように、じっくりと愛をはぐくんでいこう。そして、真冬になって、花が咲き、今の愛が実った頃、もう一度、昔の彼に手紙を書こう。そして、思い出も、悲しみも、全て胸の奥にしまいこんだと知らせようと、聖子さんは考えています。

 私はこの曲を聞くと、必ず、自分のカラオケ愛唱歌である名曲「サボテンの花」を思い出してしまいます。

似ている点 1.同棲していた男女が別れること

      2.冬に咲く花を栽培していること

      3.冬が終わるまでに心の整理をしようとしていること

ということで、イメージが重なり合ってしまって困るんですが、曲自体は、とても良くできています。

 この曲の良さは、今まで、片思い的な歌や、恋に夢中といった状況のラブソングを歌っていた聖子さんが、初めて大人の出会いと別れを歌ったというところにあると思います。キュートさを押さえ込んで、やさしい声といったらいいのでしょうか、今までになかった声で歌っています。聖子さんの表現力の引き出しの多さを感じさせます。曲のストーリーもよくできています。感情を押さえて、まごころのようなもので、人と接してゆこうという態度がいいですね。

 しかし、別れた恋人から、手紙が来るなんて、あんまり気持ちのいいものではありません。どんな内容であっても、怨念が感じられていやなものです。

 

PEARL

 失恋続きで、もう二度と恋はできないと思っていた聖子さん。でも、そんな聖子さんにも、新しい恋人が現れました。ふたりで海沿いの遊園地へデートに出かけたとき、観覧車に乗った聖子さんは、突然泣き出してしまいます。恋人とふたりきりでいられるなんて、あまりにも幸せだから。窓の外を見ると、水平線から真っ白な満月が昇ってきます。まるで、それは、海の底に眠っていた大きな真珠が天に昇っていくようです。聖子さんの恋心も、今までは、深い海の底に眠っていましたが、恋人とのめぐり合いによって、美しく輝きながら、どこまでも天高く昇っていきます。

 この曲は、サビに行くまでの前半部分が中音。この音域は、初期のアルバムでは、いまひとつ感情をこめて歌えませんでした。しかし、この曲では聖子さんの感情がたっぷりと込められています。やはり、歌手としての力量が、初期と比べると向上したことがわかります。この声が、女らしさいっぱいでたまりません。

 曲全体は、さやわかな印象です。作詞は上田知華さん。上田さんの歌詞は、聖子さん関連の作詞を見る限り、情景の描写が半分、イメージの世界が半分という感じがします。それぞれの世界がはっきり別れていて理解しやすいです。情景の描写に徹する西脇唯さん、着眼点がユニークな谷亜ヒロコさん、物語を作っていく馬場俊英さん、そして、ひたすらイメージの世界を追っていく佐藤聖子さん。作詞者の方もそれぞれ個性があります。意識して聴き比べてみると楽しいですよ。

 

365 Colors Of The Rainbow

 今日は、聖子さんの1年目の結婚記念日。外は夜が更けて、雪が降りしきっています。部屋の中はストーブの明かりだけが、ふたりを照らしています。テーブルに向かい合って、ワインを酌み交わすふたり。聖子さんが話し掛けても、夫は無口のままですが、互いに目を合わせるだけで、心が通じ合います。瞳の奥をよくみると、ストーブの明かりに照らされて、虹が見えます。そこには、ふたりのすごしてきた365日の日数の分だけの色が刻まれているようです。

 聖子さんがご結婚されたら、とてもかわいい若奥さんになりそうですね。すこし性格がきつそうですが、きっと、心から夫を愛するでしょうから、あまり心配なさそうですね。歌声も、どことなく人妻っぽい雰囲気が出ていて、かわいい中にも、色っぽさが感じられます。

 私は、聖子さんが今だにご結婚されないのが心配です。歌手としては、結婚がプラスになるのかマイナスになるのかわかりませんが、実際に結婚されてからも活躍されている女性シンガーの方は、たくさんいらっしゃいます。もし聖子さんが、歌手であるがために、結婚されないのなら、とても残念に思います。仕事よりも、まず、プライベートな面を充実させてほしいです。それに、私は、きっと歌の方にも良い影響が出ると信じています。やっぱり、本当に深い愛は、結婚してみないとわかりません。ご結婚されれば、今よりも、もっと深いラブソングがきっと歌えるようになると思っています。

 この曲は、新婚生活を題材にしていますが、私には新婚生活はただの1ヶ月しかありませんでした。結婚してすぐに妻が妊娠していることがわかり、しかも流産の危険性があるので安静にする必要があるというので、結婚1ヶ月で妻は実家に帰ってしまったのです。だから、いまだに新婚生活には憧れを持っています。私も結婚1周年を、妻とふたりでワインを飲みながら過ごしたかったです。これはもう一度結婚するしかないか。

 

雨が聴こえる

 聖子さんは、毎日、仕事で忙しい日々を過ごしていましたが、それも、今日でやっと一段落。仕事を終え、街に出ると、あたりはすっかり夜。そして空からは大粒の雨。信号も、車のヘッドライトも雨にくもり、幻想的に光っています。街の人ごみの中で、雨粒をひとつひとつ数えていると、まるで、雨音がやさしいメロディを奏でているようです。もう今日からは自由。これからは、好きな人と、いままでしたことのないような恋もできる。聖子さんは、笑顔で家路につきます。

 恋心というものは、平穏な楽しい日々の中から生まれるものではなく、仕事などの重圧からふっと開放されたときに、何かのきっかけで急激に芽生えてくるものだと思います。この曲の場合は、きっかけは、幻想的な雨の夜の光景であると思います。聖子さんの歌は、恋におちてゆく場面の描写が比較的少ないのですが、この曲は、非常にリアルにその状況を捉えていると思います。

 アルバムの他の曲と比べると、地味ですが、いつまでも耳について離れない曲です。どことなく、同じハイトーンの歌手である八神純子さんの世界を彷彿させるものがあります。聖子さんの場合は、ハイトーンの透明感に、キュートさ、チャーミングさが加味されて、八神さんの場合とくらべて、親しみを感じます。

 八神さんは、全盛期から20年以上たった今でも、細々と新曲を出したり、小さな会場をまわるツアーを開催されたりしています。他の人と比較して申し訳ないですが、聖子さんも、どんなに細々とした活動でもいいから、いつまでも、私たちの前から姿を消さないで、歌いつづけてほしいと願わずにはいられません。 

 

BABY CRY

 この曲は、歌詞が、自殺をほのめかす内容であるため、好きにはなれません。聖子さんには、こんな曲を歌ってほしくないと思います。

 

Almost Blue

 聖子さんは、ひとり真っ青な冬の海を見つめていました。心に浮かぶのは、彼の暖かい胸に抱きしめられること。でも、それは幻。人魚姫が海の泡になってゆくように消えてゆきます。

 底知れない深い青色の透明感を持つこの曲は、まさにクリスタルボイス佐藤聖子の本領発揮といえるところです。この世で聖子さんにしか、歌えない曲がいくつかありますが、そのひとつ。いろんなジャンルの歌に挑戦するのもいいけれど、この曲のような、透明感+切なさで勝負する曲では、聖子さんに勝てる人はいないんだから、ずっとこれでいったらいいのにと思ってしまいます。(でも、本当は、いろんな曲を聴きたい)また、表現力の確かさに聖子さんの女性としての成長を感じます。

 クリスタルボイス佐藤聖子の透明感が最高に発揮された名曲と言えるでしょう。(2000年)

 2000年の時点で気がついていたのですが、書きもらした重要なことが2つあります。
 1:聖子さんが、画家であるお父さんの絵を見て、この曲を書いたこと

  2: 童話「人魚姫」のモチーフを取り入れていること
 1は豹悟郎さんのHPでうりぼうさんが言っているので知りました。2は娘に人魚姫を読んでやっているときに気がつきました。(2005年)

 

Wish

 聖子さんは、遠距離恋愛中。普段は会うどころか、電話をかけることさえままなりません。遠い空のかなたに住む彼氏のことを思って、まぶたを閉じれば彼に会えるんだ、自分は孤独じゃないんだ、と心にいいきかせても、やっぱり涙がでてきます。でも、今日はクリスマスイブ。夕暮れの街はクリスマスキャロルが流れ、恋人たちであふれかえっています。そう、今日は彼氏が聖子さんに会いにやってくる日なのです。駅で彼氏を待っている間、彼にどんな言葉を掛けようかと考えますが、彼への思いで胸は一杯。切なさで、会う前から、もう涙があふれてきます。そんな聖子さんの元へ彼氏が着くのも、もうすぐです。

 極上のクリスマスソング。ファンのなかでもこの曲が一番好きという人が多いのではないでしょうか。まず、メロディーが、クリスマスの雰囲気をかもし出しています。なぜそうなのかは、音楽に詳しくない私には説明できません。編曲のせいだとは思えません。また、本人作曲のため、聖子さんが自分のペースで無理なく歌っているのも、魅力のひとつかもしれません。歌詞も最高にロマンチックです。「空に鳴る鈴の音が…」のところが特にいいです。また、人を恋する幸せのあまり、涙が出るなんて、自分の若かったときのことを思い出します。

 今でも私は、人を愛する気持ちを持っているのかなと考えますが、よくわかりません。私は、今は、妻が重病になって、人生の修羅場で生きていますので、心が、甘いラブソングに反応しなくなったのかもしれません。でも、少なくとも5、6年前までは、この曲で歌われているような、みずみずしい愛情を、妻に対して持っていたことは、確かです。今は日々の生活に追われて、あまり表には出てこないけれど、心の奥底では、この曲に出てくるような思いを、自分も持っているに違いない。そういうことを思い起こさせてくれる素晴らしい曲だと思います。(2000年)

 聖子さんは歌手を辞めて、スペインにフラメンコ留学に行きました。日本に電話を掛けるのも大変だったでしょう。IP電話でもないと、無理だったはずです。年に一回くらい、たとえば夏のフラメンコ新人公演のときに帰省していたのではないでしょうか。たぶん、ちょうどこの歌のような状況になっていたのかもしれません。(2005年)

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