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アルバム未収録曲
  

星降る夜に

 満天に星が輝く夜、聖子さんは、むかし恋をしていたころによく聴いていたCDをもう一度聴きなおしてみます。年月は過ぎてしまったけれど、いまでもよく覚えているメロディは、あのころのまま。聖子さんの彼への思いも、時間をさかのぼり、よみがえってきます。満天の星空を通り抜けて、彼氏へこの思いが届けと願いながら、聖子さんは歌います。

 聖子さん作詞作曲のこの曲。みずみずしい歌声が、21才の聖子さんの等身大の思いを、私たちに伝えてくれます。背伸びするのでもなく、飾り立てるわけでもなく、自然体。それでいて、歌からあふれてくる情感の豊かさ。聴けば聴くほど、心の中の何かが浄化されていくようで、のめりこんでいってしまいます。眠れぬ夜は、この曲を何度も聴くと、心が安らかになります。でも、逆に、昔の思いがよみがえってきて、少し目がさえてくるかもしれません。

 聖子さんの最初期の曲ですが、いま29才の聖子さんが歌ったとしても、何も違和感がないだろうと思います。それほど、曲の完成度が高いです。珠玉の小品という言葉が、まさにぴったりです。

 私自身の思い出をいえば、初めて聖子さんのライブにいったとき、帰りの深夜バスのなかで、眠れずに、なぜかこの曲をずっと聴きつづけていました。これからもずっとずっと聖子さんのファンでいようと決意したのは、そのときだったような気がします。

 

光る空につつまれて

 夜明け前に目を覚ました聖子さん。窓を開けると外は海。波のさざめきが聴こえ、潮風が香ってきます。今日は休日。聖子さんの彼氏は、いまごろ高速道路を飛ばして、聖子さんもとへむかっているはず。聖子さんの心には、これからの一日のことが浮かびます。晴れ渡った光り輝く空につつまれて、砂浜で海を見ながら、いつまでも二人きりで過ごす楽しい時間のことが。

 この曲をいつも聴いていたころ、私もこの曲の彼氏のように、週末になると、高速道路を飛ばして、恋人=今の妻を迎えにいっておりました。二人とも海が好きで、遠州灘に面した広大な砂浜によく出かけました。二人きりで風に吹かれて砂浜を歩く時間、砂に腰掛けて海を見つめる時間が、言葉では表せないくらい楽しかったです。それまで、何度もいろんな恋をしてきたけれど、こんなにふたりの心がひとつになれたのは、そのころが生まれて初めてでした。

 その妻も、今では重病人になってしまいました。もうあの頃の二人に戻ることはありません。この曲には、私の人生の中で一番幸せだったときの光り輝く思い出が、そのまま、まるごと、ぎっしり詰まっています。

 平凡な曲だと思う人がいるかもしれないけど、私にとってはかけがえのない大事な曲です。聖子さんの歌全部の中で、この曲が一番大好きです。

 

マスカットの空

 マスカットのような淡いグリーンの色をした空に照らされ、甘い風につつまれて、聖子さんは今、思い出がいっぱい詰まった住みなれた町を後にします。思い出すのは、彼氏といつも待ち合わせたときのこと、そして最後に別れるとき、彼氏が聖子さんを抱き寄せたこと。

 「Jasmine」のカップリングの歌。静かな歌の作りが「Jasmine」と好対照をなし、味わい深いです。この歌にあふれるのは、ムンムンとした熱気。春でしょう、まぶしい日差しに、甘い風というか、暖かい風が吹く雰囲気が感じられます。でも空だけが異常な色をしています。ありえない淡いグリーン。

 聖子さんは、この歌をライブで歌うときに、「あたしの思い出を曲にしました」と説明してくれました。さらに聖子さんは雑誌のインタビューに答えています。「マスカットの空」は淡いグリーンの色をした空で、恋が終わる時の空。この歌は自分がもっと未来に失恋したときの歌だそうです。

 聖子さんが実際に失恋したときの経験をベースにして、将来、出身地の新座の人々と離れていくときの姿を想像してみたのではないかと、私は思います。

 この歌は、実際にはありえないマスカット色の空を思い浮かべないと、良さがわからないでしょう。こんな歌を思いつくのは、画家のお父さんの影響が強いと思われます。

 マスカットの空という虚構と、聖子さんの真実の思いが、うまく混合された歌です。
(2005年6月)

 

ロマンス

 聖子さんには、ひそかに心を寄せている男性がいました。なかなか告白できずに、ため息ばかり、思いはつのるばかり。でも、それは過去の話。今日は、クリスマスイブ。そして目の前にいるのは、聖子さんの憧れの男性です。クリスマスイブに恋人と二人きりで過ごすのは、聖子さんの昔からの夢でした。もう自分が恋物語の主人公になったようで、うれしくてたまりません。

 きらめくようなチャーミングな歌声を聞かせてくれる曲です。とくに、サビの部分のやんちゃな歌い方が、胸にキュンときます。最近は、こんな歌い方をやめて、しっとりと歌っている聖子さんですが、たまには、また、このころのように、恐れを知らぬような歌い方をしてほしいです。

 聖子さんが出したシングルの中で、どれが一番好きかといわれたら、「空にキスをするように C/W:ロマンス」をあげたいと思います。なぜなら、このころの聖子さんが一番元気だったと思うからです。怖いものなしで、全ての行動が自信に満ち溢れていたと思います。たとえば、髪型を突然アフロにしてみたりとか。そういう勢いが、曲にあらわれて、感情が一杯つまった歌に仕上がっていると思います。

 私は、たくさんある聖子さんのロゴマークのうち、このシングルのロゴマークを、ステッカーにして車に張りつけていました。

 他のカップリング曲と同じように、聖子さん本人作詞作曲の等身大ソング。どこまでが聖子さんの本当の体験なのでしょうか。それは、考えてもわからないことですが、みなさん、自分が生まれて初めてクリスマスに恋人とデートしたときって、こんなにロマンチックでしたか。なんかちょっと違うぞと感じませんか。それとも、私が年を食ったので、昔のロマンチックな感動を忘れてしまったのでしょうか。

 

つらいのは...

 聖子さんは、忙しく、めったに恋人と逢う事ができません。もっぱら電話で連絡を取り合っています。そんなある日、つまらないことで、恋人と口げんかしてしまいました。不機嫌な声で一方的に切られた電話。聖子さんは、こんなつまらないことが原因で、別れたくないと、自己嫌悪に落ちいります。彼氏の留守電にお詫びのメッセージをいれます。いつも機嫌よくいられるわけじゃない、たまには彼の気に入らないこともするかもしれないけれど、それでも聖子さんは心の底では彼のことを愛しているのです。楽しいときも、つらいときも、いつも彼氏と同じ気持ちでいたいのです。

 本人作曲で、例によって、のびのびと歌っています。編曲が天空を舞うような感じで、恋しているときの高揚感をうまく表現しています。サビのところで、彼を愛していることを歌っているところも、変な悲痛感はなくて、自然な感覚なのがいいです。苦しい時でも、「もがいても逃げない」とか、「おんなじ気持ち」といってるところがいいですね。男性の立場でも、ケンカしてしまったあとはしまったと思いますが、女性がこういう気持ちでいてくれたらいいなと思います。やっぱりこの歌のように、お互い同じ気持ちなのでしょうか。

 男と女は、どんなに愛し合っても、ひとつの気持ちになることはないのではと、最近思うようになりました。私のカラオケ愛唱歌の中に、尾崎豊の「ふたつの心」というのがあります。男女の心は決してひとつになることはないけれど、互いに求め合えば一緒に生きてゆけるという内容の歌です。私もそう思います。

 

二度目の夏

 恋人と交際をはじめてから二度目の夏。キスをしても、心が燃えてきません。一緒にいても、早く時間が過ぎないか時計ばかり見ています。彼からの旅行の誘いにも、今ひとつ乗り気がしません。去年の夏の気持ちに戻って情熱的に彼を愛したいとは思うのですが、一度冷め始めた心はどうしようもありません。

 聖子さんの歌の中で、唯一、自分から恋心が冷めていく曲です。軽いリズムにのせて、女らしさたっぷりに歌う様子がいいです。でも、聖子さんの声で、こういう内容の曲をやられると、なんとなく自分が聖子さんに嫌われているような気がしてが、切ないです。

 この曲は、「さよならがおしえてくれる」のカップリングの曲です。ちょうど私が結婚を目前にして聖子さんファンをやめようかと思っていたころに発売されました。「さよならがおしえてくれる」とこの曲が、二曲そろって、どちらも聖子さんが、私に別れを告げているように聞こえました。

 でも、聖子さんには悪かったですが、結婚してからつい最近まで、聖子さんの応援を余りやらずに、妻と一緒の生活に専念したのは結果的に良かったです。たった5年間で妻は重い病気にかかってしまったのですから。

 

愛のメロディ

美しい春がやってきました。草木は芽生え、花々は咲き乱れ、雲の切れ間からは光がさしこんできます。耳を澄ませば、愛する人の言葉が聞こえてきそうです。聖子さんの愛の歌は鳥になって、どこまでも遠く、愛する人のところまで飛んでいきます。

出だしの第一声からおやっと思わせる曲。それまで聞いたことのない聖子さんの声が聞こえてきます。休養期間を過ぎて、まったく新しい聖子さんが誕生していました。名作「CRYSTAL」をリリースしながらも、シングルに関しては、行き詰まっていた聖子さん。この曲によって、殻を破って、年齢にふさわしい新たな道に進んでいかれるものと期待していました。それなのに、まさか、シングル3枚、2年くらいで、また休養してしまうとは、思いもしませんでした。

目を閉じて、この曲を聴けば、聖子さんの姿が、私にははっきりみえます。広い草原に一人立ち、大きく手を広げて、この歌よどこまでも届けと、歌い続ける姿が。

私たちリスナーも、愛に疲れたときは、聖子さんの元にいきます。いつも聖子さんの歌に包まれて、癒されて、私たちは生きていると思います。

 

Rain Blossom

雨降りの日に咲く一輪の花。それはまるで聖子さんの愛のようです。彼氏を愛していたときは、晴れた日に誇らしく咲いていましたが、今では雨に打たれ続けて元気がありません。それでも、あともう少し、咲いていて、自分の心を守ってほしいと聖子さんは願います。彼氏のことを、すっかり忘れてしまうまで。

こういう昔の歌謡曲っぽい歌は、結構大好きです。若者のように、熱っぽく愛を叫ぶのではなく、落ち着いて、それでいて切ないというのがいいですね。ドライブにもぴったりです。こういう曲が歌えるようになったのも、聖子さんが20代後半になったからだと思います。

私は、女性シンガーの歌唱力が最高に達するのは、20代後半だと思っています。聖子さんの場合は、その時期にあまり活動しませんでした。残念というか、もったいなくて仕方がありません。

 

Windy

聖子さんの友人の名はWindy。たとえ、失恋しても、すぐに悲しみを忘れて、風のように次から次へと恋をしていきます。でも、決して、不真面目な恋をしているわけではありません。ただいつも陽気で、打たれ強く、たくさんの恋心をもっているだけなのです。

次から次へと恋を重ねる女性というのは、男性にとっては、ある種のかわいらしさがあっていいです。「悲しみと同じだけ愛を知る」というのは、本当のことだと思います。もちろん人によって考え方がちがうかもしれませんが。

この曲は、女性に向けたメッセージソングという要素もあると思います。女性の方は、この歌を聴いて励まされるのでしょうか。私は、違うと思います。このWindyという女性は、こうありたいという、女性にとっての理想像となのではないでしょうか。

そもそも失恋を忘れるスピードというのは、男性と女性でどちらのほうが速いのでしょうか。よくわかりません。どこかの大学でまじめに研究している人はでしょうか。

 

Our Song

 夕暮れの歩道橋の上、聖子さんは、「さよなら」を言って愛人と別れます。あふれだす涙。でも、それは、後悔の涙ではありません。いつか別れの日が来るのは、最初からわかっていたこと。最後は笑って別れようと思っていた聖子さんでした。けれども、彼と激しく愛し合ったことへの思いがこみあげてきて、涙となってこぼれおちたのです。彼との愛は、魂に深く刻まれて、永遠に消えることはありません。去ってゆく彼の後ろ姿を見ながら、聖子さんは歌います。傷ついても、これから別々の人生を生きていかねばならない、ふたりのために。

 私は、昔、作曲者の柿原朱美さんのライブに行ったことがあります。しっとりとした大人のライブで、盛り上がりはぜんぜんなかったですが、観客と柿原さんとバンドのメンバーの間に一体感があって、良かったです。そのときから、聖子さんも、もう何年かしたら柿原さんのような大人のライブをやってくれるに違いない、楽しみだなあ、と思っていました。そしたら、実際に何年か経ってみると、なんと聖子さんが柿原さんの曲を歌うことになって、驚きました。

 柿原さんと聖子さんの歌の世界は全く違うし、曲自体もドラマの主題歌にあつらえた感じで、聖子さんを聴き続けてきた耳には、少し違和感があります。でも、そんなことを全部吹き飛ばしてしまうほど素晴らしいのが、聖子さんの歌声の輝きです。過去のシングルのように無理に声をはりあげず、ひたすらナチュラルにしっとりと歌う聖子さん。もう少し高いトーンでも無理なく歌えるはずなのですが、あえて、それより低めのトーンで歌っているのが魅力的です。これまでの曲に見られなかったまぶしい輝きを放っています。

 この曲で聖子さんは完全に大人のシンガーに脱皮したと言えるのではないでしょうか。そして、大人のシンガーになっても、なお、その歌声は輝きつづけています。

 

エメラルド

 エメラルドの月の輝く夜、聖子さんは、静かに目を閉じて深く息を吸い込みます。胸に満ちてくるのは、遠い昔に別れた彼への思い、彼の微笑み、彼の声、そして彼と愛し合った思い出。聖子さんの願いは、エメラルドのような彼への愛に自分の全てを捧げること。夜空に向かってくちづけを求めながら。

 私は、この曲を聴いた最初の頃、よく頭がしびれました。私はライブでいい曲を聴くと頭がしびれるんですが、この曲は、CDだけでもう頭がしびれてしまいました。もう聖子さんの新たな魅力にメロメロでした。それに、ずっとかけっぱなしにしていると、とても心が落ち着くんです。こんな曲を作って歌うこともできたんだな!て感じです。まだ、この手の曲に不慣れかなという面もありますが、その反面、いやらしくならず、キュートな感じをどことなく残しているのがいいです。アレンジも最高です。

 これから、アルバムを作ることがあったら、こんな感じの曲を量産してほしいです。そして、死ぬまで一度でいいから、この曲をライブで聴いてみたい。大人のシンガーに脱皮した聖子さんのライブを聴きに行くのは、私の数年来の夢なんです。そして「エメラルド」は、そこで演奏される理想の曲です。

 
 

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